口と自信で勝負する、同好会の名選手たち|座談会
原題:座談会 同好会テニスを斬る
時:11月7日 午後9時
所:岡山県国民宿舎 牛窓荘413号室
岡山県・牛窓荘の一室に集まった、同好会を代表する六人の「名選手」たち。テニスの技術、仲間の弱点、ダブルスの相性、そして自分自身の才能について、遠慮のない議論が繰り広げられます。しかし、その傍らでは麻雀が進み、話は次々と脱線。本人たちの自信と周囲の評価が軽妙にぶつかり合う、昭和の大阪大学テニス同好会らしい、にぎやかで愛情に満ちた座談会です。
出席者紹介
藤井 裕選手
サーブとボレーを主体とするパーフェクトプレーヤーと自称するが……。
富尾 公一選手
進境著しく、特につぼに入った時のショットがすごい。「つぼイコールポイント」との声もある。
山本 久夫選手
顔と同様、個性的なテニスをする。しかし、なぜか人気急上昇で、ボルグをもしのぐとか。
藤野 茂雄選手
緩急自在の名プレーヤー。しかし、その真価は衆人には知られていない。
平山 桂選手
打って、打って、打ちまくり、それが入るから不思議なプレーヤー。
そのくせ本人は「確率のテニス」を強調するのが、また不思議。
今井 正幸選手
いろいろな意味で、同好会史に残る名プレーヤーを自称するが、「オールラウンド」ではなく「オールドラウンド」の間違いではないか、との声もちらほら。
テーマ:今までの同好会の形式と、その展望
室内に出席者が勢ぞろいし、煙草の煙がもうもうと立ち込め、すでに、これから始まる歴史的会談に対する緊迫感があたりに満ちている。
もっとも、四人だけは子供の遊戯のためであるが……。
話の口火を切るのは、年齢に敬意を表して……。
まずは女子のファッションから
今井「女子のファッションが統一してきてさあ。特にワンピースなんか、かなりよくなったと思わない?」
平山「その問題については、昔の名選手、上神選手との件もあったもんね」
山本「しかし女子のファッションも、最近よくなってきたんとちゃうか」
ここで山本氏、おもむろにリーチ。
今井氏、リーピン、イッペケ、イッチョ、ニチョ、サンチョ――一万二千点。
同好会では、口が強くなくてはいけない
今井「しかし同好会では、口が強くないといけないよね」
藤井「そうそう。しかし、それが一番強いのは今井さんでしょ。僕なんか、いつも負けてますからねえ」
今井「いや、それは僕だけじゃないでしょ。藤井君も『いいよ、いいよ。もういいよ』と言って、うじうじと、かなりいやらしいことを言ってるじゃない。
でも、やはり屋鋪だろうなあ。彼は『俺のここへ打ってくるなよ。得意だからな』なんて言っちゃってさあ。これには僕も負けたよ」
藤野「この頃、チャー坊がごっつうまくなってるようだね」
山本「わかるかね。わかるかね」
今井「彼の場合、練習量が違うよね」
藤野「まったくだ。同じ試合でも、普通の人の二倍、球に触るからな。皆、よくセオリーを知ってるよ」

山本「それが人気のゆえんなんだよ」
藤井「同好会では、下手ほどモテるんですかねえ」
富尾「しかし同好会では、特別な弱点をさらけ出してはいかんな。テニス以外の面でもね」
藤野「その話はやめよう」
ここで話題が途切れ、しばしチー、ポンに熱中。
清水選手の腰をめぐって
藤野「なぜ清水は、ああすぐ腰が痛くなるのかなあ」
平山「腰の使いすぎだよ。球を打つ時に」
藤井「それだけではないでしょ」
山本「しかし清水のフォームはいいよ」
今井「だけど、あの腰の曲がったサービスといい、ストロークといい、高田のフォームと共通してるよね」
藤井「しかし彼のバックのライジングボール打ちは、大したもんですよ」
平山「でも、それは確率の問題だからな」
藤野「清水には、もうあの重いウッドを振り回すだけの腰の力がないんじゃないか。
もう彼も、スチールラケットを持って老人テニスに走る年だよなあ。僕のペアだけど、事実は曲げられないよ」
大器晩成型・山本選手を斬る
藤野「でも最近の山本のロブは有効だなあ。ベースライン付近にきっちり落ちてるよ」
山本「わかるかね。わかるかね」
藤野「しかし、よく見てると、ただ当ててるだけで押しがないから入るんだな」
今井「それにさあ、山本君ってシビアな試合で失敗しても、だらしなく笑うんだよね。彼は失敗に慣れっこなんだよ」
山本「力に言うてんねん。今に見ていろ、俺だって」
(注・三年前からこればっかり)
平山「山本とゲームすると、バックを突けば返ってこないという先天的な意識があるんじゃけん」
山本「皆が心配してくれることはないよ。俺は大器晩成型だよ。他人が心配するほど、俺は心配してないよ」
全員「それでうまくならないんだなあ」
山本「まあ、それは置いといて、俺によく似た野郎がいるでしょうが。ほれ、あいつめ」
全員「ああ、荒木だろう」
荒木選手のボレーを斬る
平山「荒木のことなら、ちょっと言わせてもらおう」
急に口が軽くなる。
平山「第一に、あいつはどうしてローボレーが好きなんだろう。
あいつ、いつもボレーを難しいところで取ろうとするんだよね。どんなイージーボレーでも、なるべく下がって打つんだよ。
ロッド・レーバーも言ってるんじゃけん。『ボレーは一発で決めなければ危険である』」
平山氏が、さらに第二、第三の点を言おうとした時――。
山本「しかし荒木、山本で今井、平山に勝ったもんね。いっひっひっひー」
だらしなく、いやらしく笑う。
藤野「山本はいいよね。勝った試合は全部覚えていられるんだから」
藤井「今井、平山なんて、あんな臭いペア、誰でも勝てるよ」
今井「平山と組むと、一プラス一が二にならないんだよ。〇・八ぐらいになっちゃうんだ」
藤井「マイナス一プラス、マイナス一は、やっぱりマイナス二だもんね」
今井・平山「試合相手との次元が違うんだよ。相手のボールがぬるいの! 僕たち、あんな遅いボール打てないんだよ」
山本「今井、平山は中島、森岡にも負けたんやろ」
今井「中島の話はやめよう」
ここで話を巧みにそらす。
今井「しかし、なんで荒木の肘の曲がったバックボレーが返るのかなあ」
平山「ほんと。あのバックボレーが入って、なんで山本のバックボレーが入らんのや」
藤野「山本のボレーはロブと一緒で、当ててるだけの時は入るけど、下手に押すとバックラインを軽く越えるんだよね」
平山「山本のボレーは、ボールとの出会い頭のボレーじゃけんね」
山本「荒木のボレーは、技のなさを力でカバーしているんだよ。力で押し込むだけのボレーなんだよな」
平山「荒木は話題に乏しいし、くっさいから、もうやめよう」
生野、市村、そして「若さ」
藤野「じゃあ、生野はどうや」
平山「生野のテニス、くっさいもん。やめよう。土木のテニスは話にならんもんね」
藤野「最近、市村の元気がないようだけど」
山本「市村は、この頃若さがなくなったよ」
平山「だんだん清水に似てきたなあ」
藤井「そんなに気にすることないよ。若さは僕がカバーしているよ」
今井「若さと幼稚さとは違うんだよね。君は幼稚さでは一、二年に匹敵するけど、肉体的雰囲気は四、五、六年並みだなあ。君といると心が落ち着くよ」
藤井「市村はテニスのことをよく知ってるよ。なかなか研究してるし、先天的なテニスセンスがあるんだなあ」
山本「そうだなあ。市村は、どこといって非の打ちどころがないよ」
平山「どこといって長所もないね」
山本「そんなこと言うなよ。市村はいいやつだよ」
藤野「確かにそう思うけど、そうむきになることはないだろ」
山本「いや、あいつにはよくおごってもらってるし、彼のラケットを折ったこともあることだしな。

それに麻雀でも、よく振り込んでくれるしなあ」
藤井「山本さんは、市村がいないと勝てないもんなあ」
全員が納得したところで、麻雀が終わる。
山本氏の成績は……。
再び全員、納得。
今井・藤井、ビューティフルテニスを語る
今井氏と藤井氏、さっきから何やら怪しい雰囲気。
今井「ところで藤井君! 君と僕とは、実にテニスがビューティフルだねえ」
藤野「しらじらしいなあ。俺、もうしゃべる気なくなったよ」
二人を残し、他の者はすねてお茶を飲みに行く。
今井「同好会で、オープンスタンスでの安定したストロークといえば、君と僕だけだなあ。
それに、腰のよく落ちた鋭いボレーなんか、他人にはまねできないね。やはりテニスは素質かなあ」
藤井「それは当たってますね。素質のない子はいやだなあ」
今井「同好会では、素質のないプレーヤーがはびこってるわ」
藤井「ところで今井さんの場合、あの鋭いローボレーは、どう打ってるんですか?」
今井「藤井君の場合と一緒ですよ」
藤井「ああ、今井さんも、あのフィーリングですか」
今井「そう。ひとりでにボールの方からラケットに当たるや否や、コートに突き刺さっているんですよ」
藤井「そうそう。あのフィーリングは、言葉では言えないですよね」
二人、納得。
他の出席者、呆然。
読者は――。
ここで二人、自己満足にふけりながら、手をつないでトイレへ行く。
自己満足陶酔型をどうするか
平山「よう言うよ、あの二人。彼らのボレーは、しゃがんで取ってるだけじゃないんか」
藤野「ああいった人種を、自己満足陶酔型というんだなあ。
同好会も、ああいう人種を放し飼いにしておくのはよくないなあ。檻に入れとこうよ」
平山「ストロークもろくにできない彼らが、ボレーの話をするなんて十年早いよ」
富尾「オープンスタンスだって、年のため足が遅いから仕方なくやってるだけなんだよ」
山本「それに、テニスの素質なら俺の方があるよ。なんてったって未完の大器だからなあ」
ここで一瞬、座がしらける。
平山「彼らは、テニスの前が見えてないんだ」
藤野「それに、素質があってあのテニスなら、よっぽど練習してないんだなあ」
平山「ボレーだって、彼らのはいつも自分のコートに突き刺さってるんだもんね」
全員、一つひとつ深く納得する。
平山選手の速球の秘密
藤野「ところで平山。君はどうして、そんなに鋭く速いストロークをいつも打てるんや?」
平山「ゆるい球を打つと失敗するからだよ。だから女、子供と打つのはいやだなあ」
山本「子供というのは浅田のことか?」
平山「ちゃ、ちゃうよなあ」
同意を求めるが、答える者なし。
山本選手の速い球
富尾「速い球といえば、最近、山本の球はずいぶん速くなったねえ」
山本「わかるかね。わかるかね」
藤野「わからんね」
山本「確かにレシーブでは、自分でも速くなってると思うよ。特にバックではね」
富尾「いや、レシーブのことを言ったんじゃないよ。サーブのことだよ。
もっとも、速いことと入ることは別だけどね」
山本「でも、あれだね。この頃の富尾は進境著しいよ。バックスイングなんか、なかなか鋭いしねえ。重い体でよく走ってると思うよ」
富尾「……」
ボールは何センチに見えるか
平山「ところで藤野、君はかなり鋭いサーブをするけど、ボールの大きさはどれくらいに見えてる?」

藤野「二十センチ弱といったところかな。よく見てると大きく見えるから、打ちやすいよ」
平山「それは負けたなあ。僕は十六センチぐらいだもんね」
山本「なんや、たったそれだけか。僕なんか三十センチには見えるで」
富尾「それで真ん中に当たらないんだなあ」
山本氏以外、全員納得。
四年生が卒業した後の同好会
藤野「それにしても、今の四年はよくもまあ、こうレベルの高いのがそろったもんだね。あきれちゃうよ」
平山「ほんと、ほんと。僕らが卒業すると、後のことが心配だねえ」
藤野「まあ、だけど、それは心配いらないよ。きっちり残ってくれる人もいるからね」
山本「後輩のことは俺に任せとけ」
富尾「一度、学年対抗なんか受けて立ちたいねえ」
平山「しかし、弱い者いじめもいやだなあ」
山本「中には、いじめられる者もいるよ」
読者も含め、全員納得。
ここで今井氏と藤井氏、手をつないで帰ってくる。
全員「くっさいのが帰ってきた。もうやめようや」
これをもって、有意義な、かつアホらしい座談会は幕を閉じたのである。
最後に読者の皆様方へ
この会話はすべてフィクションであり、ここで使用される固有名詞はすべて架空のものである。
また、この作品によって生じるであろう、すべての醜い争いに当局は一切関知しないから、そのつもりで。
なお、この作品は自動的には消滅しないので、破って風呂の焚きつけにでもすること。
では、同好会員諸君の今後一層の健闘を祈る。





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