負け方を知れば、勝ち方が見えてくる?|家治川 彰
原題:下手になるには
「どうすれば上達するか」ではなく、「どうすれば下手になれるか」を考えてみる――。豪快なボカ打ち、脚を使わない練習、不安を抱えたまま試合に臨むことなど、負けるための秘訣を逆説的に並べながら、普段の自分のテニスを鋭く振り返ります。失敗の原因を笑いに変えつつ、最後にはそのイメージに逆らってみようと決意する、ユーモアあふれるテニス論です。
上達法を読んでも、コートでは
どうすれば上達するか、そして試合に勝つには……という本は汗牛充棟、ある。
(知ったかぶりをすると読んでくれない見本に……)
読んだ時には、ふむふむと頷き、いかにも名プレーヤーになった気分でいるのに、いざコートへ入ると、
「あっ、悪い!」
「ゴメン」
……で、二、三分も打たないうちに、美しいイメージは姿を消し、現実の自分がコート内をもがく。
「一体、俺、うまくなるんかなあ」
と、ふと疑う。
それでは一度、今後、練習を通じて下手になるにはどうすればよいか、考えてみてはどうだろう。
(練習もせずに下手になろうなんて、もってのほかだ)
第一に、ボカ打ちすること
まず第一に、練習ではボカ打ちすること。
低い球であろうが、高いバウンドであろうが、躊躇しない。テニスには豪快なスピードが欠かせない。
特に相手が強打してきたら、相手の顔を一度にらみつけ、
「何くそっ」
と、全力で打ち返す。

大部分はバックアウト、たまにネット、まれにエースとなる。
この一発のエースを何よりの楽しみに練習しておれば、不安定なストロークを身につけることができる。
しかる後に試合に臨めば、何発目にバックアウトするか、本人にも楽しみである。
脚は極力使わない
次には、脚を使うのを極力避けること。
スタンスの狭い、腰高の姿勢はできている。あとは自分の位置をできるだけ動かずに、ボールを打てばよい。
遠い球にはよろめきながら、近くて低い球はプロ顔負けのハーフボレーで返球。
恐らく練習の相手は、いやな顔をしてくれる。
普段こういう練習を重ねるだけでも、試合では安定して相手にポイントを与えることができる。
絶好球と見れば有無を言わずボカ打ちでバックアウト。ちょっと振り回されるだけで、よろめき打ちとなるのだから。
試合に負けるには
ところで、試合に負けるにはどうすればよいか。
勝とう勝とうとあくせくしても、どうも勝てない。
「俺はダメだろうか?」
そうだ、おまえはダメだ。
ならば……。
一つ、気分転換といこう。
試合に負けるためには、何といっても調子の悪そうな顔をすること。
何でもない球にミスを重ね、そのたびに自分を責めればよい。
敵はやりやすくなる。
「あいつに返せば、いつかミスしてくれる」
という安心感が自信を生み、さらには試合の主導権を生む。
不安を抱いておく
また、
「自分は負けるのでは……」
という不安を常に抱いておくこと。
例えばネットダッシュされた場合、相手はきっと俺の球を見事に決めるだろう、と信じ込むだけでいい。
ボールはそこへ吸い込まれ、以心伝心、敵は期待通りエースを決めてくれる。
心の動揺や、かんしゃくを顔に表すのも一つの手だ。
こっちがカーッとなっている時は、不思議と相手は落ち着くものだ。
決して無表情でいてはならない。

ミスに対しては涼しい顔、実はまぐれ当たりのエースであっても当然という顔をしておれば、逆に相手に無言の威圧感を与えてしまい、不本意にも勝ってしまう。
ここだというポイントでダブルフォールトをするのも、相手に安堵のため息を与えることができよう。
負ける方法なら、いくらでも
俺は一体勝てるのだろうか、と思い悩む人間ではあるが、さて負けるにはと考えれば、ポンポン答えが出てくる。
これはやはり、負けの素質があるのか、それとも経験がものを言うのか……?
根っから素直な人間なので苦労もあろうが、これからは、こうやって相手に勝ちを譲るには、と湧き出るイメージに、ことごとく逆らってみるとしよう。





コメント