初対外試合は、腹痛とのダブルヘッダー|森本恵次
原題:市大戦日記'78
追いコン翌日、初めての対外試合に向かった森本恵次さん。ところが待ち合わせの梅田では、仲間二人が別々に「金を貸してくれ」と絡まれて殴られるという不穏な幕開け。試合には接戦で勝ち、気分よく終わるはずが、雨で冷えた体に酢豚、ジュース、コーヒー、さらにピザまで重なり、帰り道には激しい腹痛が――。勝利の喜びと災難が次々に押し寄せる、忘れがたい一日の記録です。
朝からなんだか不吉だった
ぼくは、追いコンの翌日、日曜日だというのに朝早く起きて、梅田へ行った。
今日は大阪市大と試合があるのだ。
ぼくにとっては初めての対外試合である。
T、Y、Hと梅田の紀伊國屋の前で待ち合わせてある。
日曜の朝の梅田の駅は、ひっそりしていた。
ぼくがエスカレーターを降りていると、Hの姿が見えた。
ん?
なんか様子がおかしいぞ。ハンカチで口を押さえていた。近くにいたおっちゃんが、
「だいじょぶか」
と言っている。
「どうしたんや」
と、ぼくは言った。
「なぐられた」
「えっ!!」
ぼくはちょっと信じられなかった。Hの話では、数人のちんぴら風の髪を染めたにいちゃんが、
「金貸してくれ」
とHに言い寄ってきて、Hが「ない」と言ったら、なぐられたそうだ。
大阪は恐ろしいとこやなあ。しばらくして、Yが地下の方から来た。
ぼくが、
「Hがなぐられたんやて」
と言うと、Yは、
「おれも大勢で囲まれて、『にいちゃん、金貸してくれ』って言われて、なぐられた」
と言った。
「なに、おまえもか」
なんと、同好会の者が二人もたかられるとは。
二人は、
「ちくしょう、なんでぼくらがこんな目に会わんとあかんねん」
と言っていた。

ぼくがもう少し早く来ていたら、二人を助けることができたのに。(所詮、仮定法過去完了なのだ。)
少し遅れてTが来た。Tは、どうもみんなの様子がおかしいので、自分が遅れたことを怒っているのかと思ったそうだ。
理由を聞いてびっくりしていた。なんか不吉な一日になりそうだ。OMENだ。
市大へ
それから、ぼくたちは国電に乗り、ある駅――名前は忘れた――で降りた。
Kさんが二日酔いらしく、しんどそうにベンチで寝ていた。
試合の方はだいじょうぶかな。
30分ほどして、みんながそろって、市大まで歩いて行った。
市大は人影少なく、ひっそりとしていて、いっちょまえに時計台があった。
構内にはソテツの木がたくさんあって、雨あがりで生き生きしていた。
初めての対外試合

試合が始まった。
ぼくはGと組んで、フルセットの末、
6-3、5-7、6-4
で勝った。
ああ、しんどかった。
でも、勝つと疲れなんか気にならない。
特に接戦で勝った時は、ええ気分や。
(しかし、この試合に勝ったために、その後当分の間、ぼくは試合に負けると、「もりもと一、市大戦のあの粘りはどうしたんや」とよく言われたものです。)
試合後、Gとジュースを飲みに行った。
勝利のジュースはおいしかった。
近くでは、対戦相手が敗北のジュースを飲んでいた。
(しかし、これが後のでき事の一つの原因かもしれない。)
昼食は酢豚を食べた。
(この豚という油っこいものも、あまりよくないらしい。確か十日後の授業中に再発して、Kに医者のところまでついて行ってもらった時も、昼食はトン定だったなあ。こういう時は、うどんか玉丼がいいそうです。)
雨と冷えと、いやな予感
昼からexhibition matchで、ぼくはおっちゃん風のフレッシュの人とやって、6-3で勝った。
このころから雲行きがあやしくなってきた。
最後のTさんの試合の時は、かなり暗くなり、ボールが近くまできて、びっくりしたように動くということがたびたびあった。
よくこれで試合ができるなあと思った。
小雨がぱらついている中で、いい気分でボールボーイをしていたぼくのからだは、冷えきってしまった。
(ほとんどこれが致命傷ではないかと思う。)
試合は阪大の勝利に終わり、着替えて、ゾロゾロ歩き始めた。
アレッ!? なんか腹が痛いなあ。さっきの雨で冷えたのかな。
ぼくは腹を押さえながら歩いて行った。
腹痛なのに、シェイキーズへ
梅田まで来ると、2組に分かれて、四・三回生と一回生男子は「シェイキーズ」へ、二回生男子となーんと女子は「王将」へ行くことになった。
ぼくはどうしようかと迷ったけど、一人で帰るのも心細いので、結局、ついて行くことにした。
(おごってもらうようになったら、急に腹痛が治って、ホイホイついて行ったという噂を聞いたことがあるが……。)

ぼくは腹がチクチク痛いので、手で腹を押さえ、なぜか腰が曲がり、片足を引きずり、梅田の街を歩いていった。
Yがバッグを持ってくれたが、ぼくは歩くのが遅く、2人は信号でおいてきぼりをくってしまった。
もう引き返そうかと思ったけど、根性でついていった。
ホットミルクはなく、なぜかピザを食べる
店に着くと、ぼくはMさんの隣で、ずっと横になって痛みをこらえていた。
みんなはビールを飲んだり、ピザを食べたりして楽しそうに話していて、たまに、
「もりもと一、だいじょうぶか一」
と声がかかる。
「うーん」
「森本も飲めよ」
と言われたが、こんな時、冷たい物は悪いと思い、ホットミルクでもと思ったら、コーヒーしかない。
これも胃に良くないけど、からだが暖まるだろうと思い、飲んだ。しばらくして、また、
「もりもと一、森本のためにピザ頼んだのに……」
とかなんとか。
甘い誘いに負けて、ピザなら少しくらい食べてもいいだろうと思い――いや、自分で勝手に決めこんで――食べた。
アハハハ。もう、やけじゃ。どないでもなれ。
救世主は薬屋かと思ったら
店を出た。
依然として腹が痛い。
どこかに病院か薬屋ないかなあと思っていると、東通り商店街の入口に薬屋があった。
いつもは見過ごしていたけど、
「ああ、助かった」
と思い、店に入っていった。
「すいません、腹痛いんです」
「あっそうですか。それじゃ、これを飲みなさい」
と店の人が言って、鎮痛剤を出してきて、おまけにリポビタンDの栓をあけて、ぼくに手渡した。
「……? 何ですか、これ」
「今これで薬を飲みなさい」
「いや、いいです」
と言ったが、結局飲まされた。
押売りじゃー。人の足もとを見て。
それでも、さすがに薬はよく効いて、石橋へ着くころには痛みはおさまっていた。
しかし大事をとって、タクシーで下宿まで帰った。
ああ、しんどかった。ぼくはすぐに眠った。





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