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実践テニス教室|森長一宏

yasunoritanaka
5月18日
読了時間: 6分

原題:実践テニス教室

「サービスはすべてサービスエースを狙え」「セカンドサービスも全力で」「グランドストロークは一発で決める」。そんな大胆すぎる"実践指導"が、終始まじめな口調で語られていくユーモアあふれる一編です。テニス教室の体裁を借りながら、実は「あるある」を巧みに笑いへ変えていく文章力が光ります。当時の同好会らしい自由な空気と、読者をくすりと笑わせる昭和のユーモアが詰まった、肩の力を抜いて楽しめる名エッセイです。

サービスはエースだけを狙え


テニスが上手になりたいと思っている人へ、私の長年の経験より若干のアドバイスをさせていただきます。

まず、サービスから。

そもそもサービスは攻撃の第一歩です。狙いはあくまでサービスエースです。

サービスエースなんて難しそうですが、実はとても簡単なんです。力いっぱいラケットを振り回して、全力でボールをたたくだけでいいんですから。

フォールトなんて恐れていてはいけません。ファーストサービスもセカンドサービスも同じように力いっぱい打つことです。あなたのパートナーだってサービスエースを期待しているんです。彼のためにも力いっぱい打つことです。

全力でサービスエースを狙う昭和の大学テニス部員

それにサービスは2本もあるのです。2本も打てば、どちらかは入るでしょう。ましてや長いゲームの間に一本も入らないことなんて、あるはずがありません。そう信じて打ち続けることです。

サービスエースを決めた瞬間のあの感激。そうです、あの感激のためにはすべてを犠牲にしてもまだ十分なおつりがあるのです。

ゲームなんて、勝つより一本のサービスエースのためにやっているんじゃないんですか。ね、そうでしょう。だったら私の言うようにやることです。

レシーブされたときは慌てるな


次に、あなたのサービスが相手に万が一にもレシーブされたときのことを書きましょう。

あなたはサービスをするときにサービスエースを狙っているのでしょう。ですから、サービスが返球されたときにあなたが受けるショックは、とても言葉では言い表すことのできないぐらいのものに違いありません。

しかし、こんなことを相手に知られたのでは相手が調子に乗ってしまいますから、できるだけ平気な顔をしなければなりません。間違っても驚いた顔をしてはいけません。

この際、ボールなんて見ているヒマはありません。心の動揺がおさまるまでの時間をどれだけ短くできるかどうかに、あなたのテニス生命がかかることになります。

それから、ゆっくりボールの行方を見て下さい。多分、アウトでしょう。どうせやっとこさボールに当たったのに決まっています。そんなのでちゃんとコートに入るはずがないじゃないですか。

あなたのサービスは、入ってしまえばサービスエースと言うほどの強烈なサービスなんですから。まともにレシーブされることはないと思っていていいんですよ。

え、もしもまともにレシーブされたら?

そんなわかりきったことなんて聞かないで下さいよ。あなたには次のサービスがあるじゃないですか。ワンポイントぐらいどうってことないじゃないですか。次のサービスで取り返せばおあいこなんですから。

レシーブエースを狙え


さて、あなたのレシーブですが、あなたはレシーブのときに、

「もしもサービスが入ってサービスエースを取られたらどうしよう。」

と思っているんじゃないですか。

いいですか、相手のサービスが入る確率、それもサービスエースになるような強烈なやつですが、ほとんどゼロに等しいのです。

もしも入ったとしても、ひと試合にそう何本もあるものじゃありません。一本でもあればいいほうです。

ですからレシーブのときには、のんびり構えていればいいのです。

あなたが処理するのは、思い切り打ってレシーブエースを取って下さい、と言わんばかりのスローボールです。ミスすることなんてあるはずがありません。

たとえあったとしても気にしてはいけません。相手のサービスは、次も同じようにゆるいのに決まっています。今度こそ思い切り打ちましょう。レシーブエースが待っています。

レシーブエースの取り方ですが、打つときに相手のコートのどこに打とうなどと考えているようでは、まずレシーブエースの望みはありません。

思い切りレシーブエースを狙う大学生

要領は、相手のサービスが飛んできたら、ただひたすらボールを見つめ続け、打点に入った瞬間に相手のコートがあると思われる方向へ向かって力いっぱいラケットを振り回すことなんです。

力いっぱい打つのですから微妙なコントロールなんてもちろんできません。しかし、それだけボールのコースが変化に富むことになり、相手にとってはどこへ飛んでくるのか予想がつかず、気がついたときにはレシーブエースを取られているということになるわけです。

理想の試合とは


以上のようなサービスとレシーブをマスターしてしまうと、試合はサービスとレシーブだけでどんどん進行していき、グランドストロークを使うことはないのです。

これが理想的な試合展開なんです。

よく見かけるダブルフォールトとレシーブミスの試合と非常によく似ていますが……。

しかし、ここまで悟りきっていない人のために、グランドストロークについて少し書きましょう。

グランドストロークで一番重要なことは、できるだけ早くそれを終わらせてしまうことです。つまり、早くエースを決めてしまえばいいのです。

ねばって、ねばりまくって、相手がエラーするまで待つなんて、そんな可哀そうなことはしてはいけません。

少しでも早く相手も自分も楽になるように、エースを狙う。これがテニスの真の基本です。

偉大なプレーヤーへの道

これまでのことをすべてマスターすれば、あなたは間違いなく偉大なテニスプレーヤーの仲間入りができるでしょう。

しかし、自分の限界を知り、とてもこれまでのことができそうにない人は気の毒ですが、偉大なテニスプレーヤーにはなれません。

しょうがありませんから、平凡なテニスプレーヤーへの道を進んで下さい。

平凡なテニスプレーヤーになるには、偉大なテニスプレーヤーと逆のことをやっていれば、たぶんなれるとは思いますが……。

私は、あまり平凡なテニスプレーヤーのことについては知らないので、みなさんにアドバイスできないのがとても残念です。

試合後にテニス談義を楽しむ昭和の大学生たち

そのうち、何かのきっかけをつかんで偉大なテニスプレーヤーになることができるかもしれませんから、今日からでも私の書いたことを実行して下さい。

何か疑問な点がありましたら、いつでもいいですから聞きに来て下さい。納得のいくまで説明してあげますから。

では、このあたりでペンを止めさせてもらいます。


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