山陽電鉄に揺られて思い出をたどる|大藪雅子
原題: 私鉄沿線哀感
野口五郎の『私鉄沿線』のような都会的なイメージではなく、ガタガタと揺れながら田園風景を走る山陽電鉄。幼い頃から二十年間乗り続けたその電車には、筆者の成長とともに積み重なった思い出が詰まっています。阪急電車との対比を交えながら、故郷への郷愁、卒業を前にした学生生活への名残惜しさ、そして同好会への愛着を、温かなユーモアで綴った味わい深い随想です。
山陽電鉄とともに育った二十年
山陽電鉄は、西神戸と姫路を結ぶ中小私鉄です。
「私鉄沿線」という歌は、野口五郎が歌っているせいか、いくぶんハイカラなイメージがあります。
けれど、山電の場合はもっとずっとローカル色豊かです。
加古川あたりの水田の中を、三両連結の各駅停車が窓ガラスを震わせながらガタガタと走る……。
そんな情景が、まさにぴったりなのです。

その山電が、私の住んでいる須磨も走っています。
物心ついて以来二十年間、かつて畑だったところが住宅になり、道ができ、風景はどんどん変わっていきました。
それでも電車だけは相も変わらず、ガタガタと走り続けています。
だから山電に乗るたびに、今では遠くなった昔のことを、あれこれ懐かしく思い出すのです。
電車に乗るたび、思い出がよみがえる
画板と水入れを下げて水彩画を習いに通った小学校時代。
初めて姫路城を見に行った日のこと。
高砂近くの海岸へ潮干狩りに行った中学生のころ。
そんな思い出を、今でもはっきり覚えています。
その海岸も、いつの間にか工場用地として埋め立てられ、立入禁止になってしまいました。
地元住民による「海岸を守る会」が訴訟を起こしたというニュースをテレビで見て、時代の流れをつくづく感じたものでした。
高校へ入ってからは国鉄に乗ることが多くなり、大学へは阪急の特急で通うようになったので、最近は山電の各駅停車ともすっかり縁遠くなっていました。
ところが先日、近くの神社へ参拝に行った帰りに久しぶりに乗ってみると、
「相変わらずよく揺れるなあ」
と、何とも懐かしい気持ちになりました。
阪急と山陽電鉄、それぞれの魅力
阪急の特急は、たしかに乗り心地がいいですね。
神戸線は御影、岡本、芦屋といった高級住宅地を抜けて走るので、本当にハイカラです。
乗ってくる人も、毛皮のコートが似合う重役夫人風の人や、ロマンスグレーの老紳士が多いような気がします。
それに比べて山電は、商店街や新興住宅地、田んぼや畑の中を走り抜けます。
駅と駅との間隔も短く、さっき停まったと思えば、またすぐ停まります。
乗ってくる人も、大きな風呂敷包みを「よっこらせ」と下ろす行商風のおばさんや、魚屋のおじさんが意外に多いのです。
阪急が都市的センスなら、山電はさしずめ田舎的センス。
だから郷愁を誘うには、やっぱり山電に限るのです。

大阪に住んでいて、まだ一度も山電に乗ったことのない方は、ぜひ一度どうぞ。
姫路城や明石公園へ出かけてみてはいかがでしょうか。
もっとも、彼女を連れてデートで格好いいところを見せようと思うなら、山電ではちょっと役不足かもしれません。
ちなみに梅田から姫路までは、特急を乗り継いで二時間ほどです。
学生生活との別れを前に
この春には、いよいよ学生生活にも別れを告げなければなりません。
私としては、もう少しこのままでいたい気持ちです。
大学を卒業すれば、きっと阪急とも縁遠くなるのでしょう。
あと二、三年もすれば、阪急に乗るたび、
「あの荷物棚の上に黄色いトーナメントバッグを置いて、ジーンズ姿でどっかり腰を下ろし、服部緑地へよく通ったものだ」
そんなことを思い出すのかもしれません。
いやいや、そんなに悲観的になるものではありませんね。
思い出になってしまわないよう、これからも同好会テニスを忘れず、折に触れて顔を出せることを願っています。
追伸――歌の後継者を募集中
ちょっと話は変わりますが、同好会に私の後継者はできないものでしょうか。
何の後継者かといえば、もちろん歌のです。
別に藤圭子でなくてもいいのです。

演歌を歌う女の子が一人ぐらいいてもいいと思うのです。
私が最初に歌ったのは二年の終わりでした。
だから今の一年生、二年生女子に希望をつないでいるのですが……。
とくに一年生女子には、私の期待に十分応えてくれそうな人物がいるとにらんでいるのですが、どうでしょうか。





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