口で勝負する同好会の名選手たち|森岡 清志
原題:森清法師のクチニス
テニスは本来「足ニス」だが、大阪大学テニス同好会では「口ニス」でもある――。トーメンコートでの練習、練習後の雑談、山中湖夏合宿、先輩の新婚旅行の見送りまで、同好会の仲間たちが交わした言葉を、軽妙な会話劇として再現した一編です。実在の人物たちの個性と関係性が次々に浮かび上がり、昭和の同好会のにぎやかな空気がそのまま伝わってきます。
下町で暮らした頃
ぼくは高槻市に住んでいますが、以前は大阪の大正区にいました。
そこはいわゆる下町という感じのところで、商店街、住宅、工場が入り乱れていて、とてもにぎやかなのです。
木津川と尻無川という淀川の支流が二つ流れていますが、あまり橋が架かっていないので、隣の区へ行くのにポンポン船がよく利用されていました。
もちろん無料で、何人か客が集まれば船が出ていくという、どこか田舎風の、のんびりしたいいものです。
そのうえ、川がきれいだったら申し分ないのですが。
テニスは「足ニス」か「口ニス」か
さて、読者の皆さん、テニスの方はうまくなりましたか。
テニス本来の姿から言えば、テニスは「アシ(足)ニス」ですが、同好会では、やはりテニスは「クチ(口)ニス」とでもなりましょうか。
ここで、そのクチニスの代表選手といえる人々に登場していただいて、その技術の素晴らしさを紹介したいと思います。
トーメンコートでの一場面
山本「オイ、市村! ちょっと打とうや」
しばらくストロークが続く。
「バーン、ポーン、バーン」
市村「あっ、甘い! おっ、ラッキー。ウフフ」
バシッと鋭いボールがコートのコーナーへ。
山本さんはかろうじて拾うが、「カシャ」という音とともに、ボールはネットへ「ポロ」。
山本「あーあ、ネットしそうな気がした。あかんわ、やっぱり」
そばで見ていた今井さん、人呼んで「グロッキー今井」。
(服部緑地へは、タクシーを使わずに行きましょう。)
今井「僕ねえ、あんな打ち方きらいなんだなあ。趣味が合わないなあ。あっ、ちょっと田中さんを見て! あれ、あれ、あの打ち方なんだなあ」
高田「しかし、今井のあのサーブ・レシーブは何だ」
(前号の『Try Again』より)
隣で打っている田中嬢。
今井さんの声が聞こえたのか、聞こえないのか、相変わらずストロークを続けながら、いつものように独り言。
田中「あっ、出た! 腰が高いんですね! あっ、入ってしまった! すいません! ブツブツ……」
小寺「ラストしてください。次、スマッシュをやりますから、清水、辻本、入ってください」
清水さん、腰に手を当てながら、いつものように、
清水「僕、スマッシュもうええよ。腰がねえ、ちょっとあれでね。誰か代わりに入って」
ここで、泉南のやくざ辻本、久々の登場。
サングラスをかけ、颯爽とした格好で、何やらわからない声を出している。
辻本「ガチャガチャ、ヨオ、ニヤ、フフフ、バン、カシャ。あっ、あかん。バキ!」

(これはラケットをたたきつける音であろう。)
ネット付近では、ボレーの比較的うまい八代嬢に対して、藤野氏、荒木氏……が、いろいろアドバイスを与えている。
八代「ハイ……ハイ……。ありがとうございました。ありがとうございました……」
練習後の一場面
コートの中央に各人集まって、得意のクチニスに花を咲かせている。
荒木「ウンウン、やっぱりコナーズうまいんやな。それそれ、そこが平山と違うんやな」
清水「平山も弱いからなあ」
航空界のプリンスとなるべく、「白い滑走路」を夢見ているが、若干、顔の方がそれとマッチしない平山さんも負けずに、
平山「おれ、シングルスでは清水、荒木に負ける気しないなあ! おれ、同好会でナンバーワンだもんね」
そんなもんですかね。
ここで中島嬢とき一ちゃんがチョコマカ……。
中島「先輩、麻雀の話ですか。今日は何時まで麻雀するんですか。私も行きますから」
岸本「私も! 麻雀なるものを!」
と絶叫する。
そこへ、強化練習の時の「地獄の加藤」と並ぶ「鬼の小寺」登場。

小寺「今日はみんな、そんなに話ができるようやったら、あんまり疲れてなさそうですから……ウフフ……。僕の後について来てください」
富尾「うそ! やめよ!」
このようにして、ランニングが始まるのである。
このランニングがあるために、三年の渡辺氏は練習に行きにくいと言っている。
山中湖夏合宿の一場面
小野「ハーイ、アグネス登場。花火大会しよう! Are you ready、番号!」
それを見ていた「糸山英太郎を育てる会」の広島県支部長である森長君と、三国の雀士である横木君。
森長「イケン、イケン。そんなことしちゃイケン」
横木「あっ、やりすぎ。喜多まっつぁお」
麻雀中の一時。
皆、麻雀しか能がない。
西井「あれや、あれや。あれを忘れてるやろ」
CM「何や、中国語で言ってごらん」
森清法師「大三元トリックス。あなた、中国語だめね」
生野「西井、甘いなあ。そんなん捨てたら当たるで」
山本「さあ、いけいけ!」
西井「遊び、遊び。これどうや」
藤井「はーい、ローン」
ここで天の声。
沖野「みんな、へたな麻雀を打ってる」
飛行場で梶川さんの新婚旅行を見送る一場面
森清「梶川さん、ミックス出ませんか」
梶川「ミックスダブルス? まだそんなんやっとんか。今、ちょっと沖縄へ行くとこや」
森清「山代さん、ミックス出ませんか」
山代「オッダンケ、出るぞ、出るぞ」
とは言わなかったが、
北中「ケン、ケイ子の結婚を祝して、万歳三唱」
と言いながら、三三七拍子になってしまった。
その後、若干しらけながら、

「万歳……」
ここで江戸っ子の一言。
続いて影の声、鳥巣さん。
米川「うん、うん。また寂しくなるんだなあ」
鳥巣「おっ、梶川さん結婚。山代に、針本。なんで商事会社はそんなにもててんの」
〈完〉
最後までクチニス
皆さん、いかがでしたか。
登場していただいた方々には、いずれ出演料をいただきますので、その時はよろしく……。
「あれ?」
CM
野球は南海、ゴルフはローラボー、旅は定福寺YH、指紋占いは森清法師、プロレスはドリー・ファンク、フォークはシモンズ、麻雀は高槻、テニスは同好会、高校は大手前、酒は石油から――
「あれ!」
独語は赤井教授、物理化学はむずかしい、化学は日本語で、ラケットはダンロップ、映画音楽はギターで、テレビはイレブン、ラジオはヤンリク……。
そして最後に、
雑誌は『Try Again』!





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